このページの本文へ

ここから本文

見えない脅威への向き合い方

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 見えない脅威への向き合い方社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 見えない脅威への向き合い方い

人類は太古の昔から、目に見えない脅威と戦ってきた。感染症や天災などから身を守るために、さまざまな工夫を重ねてきた。科学は脅威とともに進化してきたといっても過言ではないだろう。ただ、科学には限界がある。見えない脅威にどう向き合っていけばいいのだろうか。

人間の記憶は常にあいまいで不確かだ。
例えば、20世紀末からの約15年あまりの期間に私たちは大災害を2つ経験している。1995年の阪神淡路大震災と2011年の東日本大震災だ。多数の被害者を出し、いまなお復興にめどが立たない地域もある。

だが、どうだろうか、私たちは過去の災害から何かを学べているだろうか。防災意識はどこまで高まっているだろうか。2024年の年明けには能登半島を地震が襲った。これから30年以内には南海トラフ巨大地震や首都直下型地震が起きる確率は極めて高い。備えはできているだろうか。これらの巨大地震が起きる確率は私たちが交通事故に合う確率よりもはるかに高いことをどれだけの人が意識しているだろうか。

目に見ない脅威は災害だけではない。多くの先進国で格差が広がり、不平等への怒りが寛容さを失わせている。過激な主張が支持を集め、国と国が武力衝突することも珍しくない。

大災害も戦争も遠い脅威にしか感じられないかもしれないが、目に見えない脅威が可視化されたときには事態はすでに手遅れになっている場合が大半だ。

見えない脅威は世界のルールや枠組みを簡単に過去のものとしてしまう。小さかった脅威が方々に拡散し、手に負えなくなる。私たちは新型コロナウィルスの脅威でそれを体感したはずだ。

脅威に対処するには正解はない。科学には限界があるし、予測可能性はときには極めて低くなる。対策をしたところで、ゼロリスクにはならない。重要なのはリスクがゼロにならない意識を持てるかどうかである。

見えない脅威にさらされるたびに私たちは教訓を得るが、少しずつ記憶は薄れていく。
例えば、未知のウィルスが蔓延する中でも災害は容赦なく襲ってくる可能性もある。日本では未曽有の大震災が起こり、ウィルスと災害の複合災害になることも可能性としては決して低くないが、どれだけの人がそれを想定しているだろうか。

脅威にさらされたときにどのように行動するかを想定することが、リスクの低減につながる。リスクを正しく理解し、恐怖を自分の中で消化することが欠かせない。

現代では目に見えない脅威は常について回る。むしろ、想定される事象が可視化されている今、目に見える脅威の方が少ない。テロもサイバー空間が主戦場になり、目に見えにくく、把握しづらくなっている。

目に見えない脅威に対して私たちができることはシンプルだ。脅威を知ること、リスクを判断すること、適切な対策を取ること,対策の効果を監視することだ。そしてその結果から常に学び、精度を高めるしかない。

悪手なのは、自分に都合の悪いことは起きないだろう、という正常性バイアスがかかることだ。そもそも事前に抑え込むことができないから、脅威なのである。

こうした認識と備えこそが現代の目に見えない脅威に対する最大の防衛策になる。

関連記事:
プロフェッショナル EYE

製造業DXに立ちはだかる未知の脅威、
「OTサイバーリスク」って何?

「サイバーリスク」と聞けば、ITを活用した情報システムの防御を思い浮かべるかもしれないが、製造業においてはそれだけではない。中央省庁や企業のセキュリティアドバイザーを歴任する川口洋氏と、制御システム向けのセキュリティソリューションを立ち上げた三菱電機の森永昌義氏に聞いた。

続きを読む
ページトップへ戻る